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糖尿病の薬物療法

はじめに

糖尿病の薬物療法は、飲み薬と注射薬に大きく分けられます。飲み薬はインスリン分泌促進薬(インスリンが出るのを増やす薬)、インスリン抵抗性改善薬(インスリンを効きやすくする薬)、その他の薬に分けられます。注射薬は、インスリンと、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬に分けられます。
全ての糖尿病薬は血糖値を大なり小なり下げる効果があります。中には血糖値を下げることによる効果と独立して付加効果として、心不全や腎機能低下、脳卒中、心筋梗塞などを予防するような、臓器保護効果を持つ薬もあります。また、中には低血糖を起こすリスクが高いものもあります。低血糖はその症状によって生活の質が落ちたり、脳の深刻な後遺症を起こすことがあるだけでなく、低血糖そのものが動脈硬化を促進すると言われています。従って、薬剤選択にあたり、目標とするHbA1cを達成するだけでは不十分で、臓器保護を意識しつつ、低血糖などの副作用をできるだけ避けることが重要です。
また、多くの方がインスリンを、「治療の最終手段」「糖尿病の末期の人が使うもの」というイメージを持たれているかと思いますが、日本人は生来、自己インスリン分泌が少なめの方が多く、インスリンを使用しなければ目標とするHbA1cを達成することが難しいことがあるだけでなく、そういった方にインスリン以外の薬剤で強引に治療しようとすると、どんどんやせてきて、筋力低下や骨折のリスクになったりすることがあります。従って、インスリンは適切なタイミングで導入することが必要です。

糖尿病の飲み薬

①インスリン分泌促進薬

1)DPP-4阻害薬:
ジャヌビア、トラゼンタ、エクアなど

GLP-1やGIPというホルモンを分解する酵素を阻害する薬です。GLP-1やGIPは、食事に伴い消化管から分泌され、血糖値の上昇の程度に応じてインスリンの分泌を促進する作用を持ちます。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、膵炎、胆道疾患(胆石・胆泥・胆嚢炎・胆管炎など)、水泡性類天疱瘡(皮膚疾患の一つ)、RS3PE症候群(自己免疫疾患の一つ)があります。

2)GLP-1受容体作動薬:
リベルサス

先述のGLP-1を内服薬にしたものです。食欲抑制効果があり、体重減少効果が大きいです。朝空腹時にコップ半分程度の水で内服し、内服後30分は飲食してはいけないという縛りがあります。
副作用として、食欲不振・吐き気・嘔吐がありますが、継続して内服すると収まっていくことが多いです。他には胆道疾患があります。

3)SU薬:
グリメピリド、グリクラジドなど

1日以上インスリン分泌を促進する薬です。
体重増加効果があり、痩せ型の方に主に使用されます。
低血糖を起こすリスクが高い薬です。このため、使用する際は最小限の用量に留めます。

4)グリニド薬:
ミチグリニド、レパグリニドなど

短期間インスリン分泌を促進する薬で、食後の血糖上昇を抑える効果があります。食直前に内服する薬です。
低血糖を起こすリスクは中等度です。

②インスリン抵抗性改善薬

1)ビグアナイド薬:
メトホルミンなど

インスリンの効きを良くしたり、糖新生(乳酸・アミノ酸などのブドウ糖以外の物質からブドウ糖を合成すること)を抑制します。他にも様々な未知の効果があると言われています。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、乳酸アシドーシスがありますが、適切に使用している場合は乳酸アシドーシスのリスクは上がらないと言われています。また、内服開始直後に下痢・軟便になることがありますが、飲み続けていると改善することが多いです。

2)チアゾリジン薬:
ピオグリタゾンなど

脂肪の分化を誘導して、インスリンを効きやすくする薬です。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、体重増加、心不全、骨密度低下・骨折があります。

③その他の薬

1)SGLT-2阻害薬:
ジャディアンス、フォシーガ、カナグルなど

尿からのブドウ糖の排泄を促す薬です。血糖降下作用と独立して、心不全や腎機能低下の予防効果が示されたことから、一部の薬は(糖尿病のない)慢性心不全や慢性腎臓病の方にも適応があります。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、尿路・性器感染症、脱水症、正常血糖ケトアシドーシスがあります。
正常血糖ケトアシドーシスでは、吐き気・嘔吐・意識障害などが生じます。多くは感染症などで食事がほとんどとれていない時や、極度の糖質制限をしている時に、SGLT-2阻害薬を内服することで発症します。

2)αグルコシダーゼ阻害薬:
ミグリトール、ボグリボースなど

糖分の分解を抑制し、腸からの糖分の吸収を遅延させる薬です。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、腹部膨満感、おならが増える、肝障害などがあります。稀ですが、腸閉塞を起こすことがあり、腸の手術を行った方には原則投与を控えます。
また、この薬を内服している際は、低血糖時にブドウ糖以外の糖質をとると吸収が遅延し、低血糖からの回復が遅延して危険です。必ずブドウ糖を持ち歩くようにして下さい。

3)グリミン薬:イメグリミン

ミトコンドリア機能を整え、インスリンを効きやすくしたり、血糖依存的にインスリン分泌を促進する薬です。インスリン分泌促進薬と抵抗性改善薬の両面を持っています。
単独では低血糖を起こすリスクは低いと言われています。
副作用として、吐き気・嘔吐・下痢などの消化器症状があります。メトホルミンとの併用で消化器症状が出やすくなる可能性があると言われています。

糖尿病の注射薬

①インスリン

超速効型インスリン(短く効くインスリン。フィアスプ、リスプロなど)と、持効型インスリン(長く効くインスリン。グラルギン、トレシーバなど)などがあります。他にも速効型インスリンや、中間型インスリン、混合型インスリンなどがあります。
自己インスリン分泌が高度に低下している方(1型糖尿病や膵性糖尿病の方など)は、良好な血糖管理のために、毎食前に超速効型インスリンを打ち、1日1~2回持効型インスリンを打つ必要がありますが、自己インスリン分泌がある程度保たれている方は、持効型インスリンと、飲み薬もしくはGLP-1受容体作動薬の注射の併用で済むことが多いです。
低血糖を起こすリスクが高い薬です。

②GLP-1受容体作動薬
(オゼンピック、トルリシティ、
ビクトーザなど)

1日1回の注射が必要なものと、1週間に1回の注射で済むものがあります。飲み薬のGLP-1受容体作動薬と違って、服薬の仕方の縛りはありません。食欲抑制効果が大きいものや、そこまで大きくないものがあります。

③GIP/GLP-1受容体作動薬
(マンジャロ)

1週間に1回注射する薬です。GLP-1受容体作動薬と同様の作用を持ちますが、食欲抑制効果・体重減少効果が大きい薬です。
副作用もGLP-1受容体作動薬と同様です。

食事があまりとれない時の服薬

感染症などで食事があまりとれないとき(シックデイ)に、普段通りに糖尿病薬を服薬すると、低血糖などの副作用が生じる可能性が高くなります。
食事があまりとれなさそうなときは、以下のように対応しましょう。

  1. 糖尿病の飲み薬は、DPP-4阻害薬とチアゾリジン薬を除いて中止する。
    これら以外の薬は、副作用が強く生じてしまう可能性があります。
  2. 持効型インスリン・中間型インスリンは普段通りの単位数で継続し、絶対に中止しない。
    中止すると、糖尿病性ケトアシドーシスという、非常に重篤な状態に陥ることがあります。
  3. 超速効型インスリンは、食直後打ちにして、食べられた主食の量に応じて調整する
    例:超速効型インスリンを普段10単位打っていて、主食を普段の6割程度摂取できた場合は、食直後に6単位打つ)

混合型インスリンを使用している方は、個別の対応が必要なので、事前に相談しましょう。

おわりに

糖尿病の薬の種類は様々ですが、当クリニックでは一人ひとりの患者さんの状態にあった薬を選択していきます。
注射が必要になった際も、分かりやすく丁寧に指導させて頂きますので、ご安心下さい。