甲状腺中毒症とは
甲状腺中毒症とは、血中の甲状腺ホルモンが多い状態のことをいいます。一方で、甲状腺ホルモンが過剰に作られる状態のことを、甲状腺機能亢進症といいます。両者は似た概念ですが、甲状腺中毒症が甲状腺機能亢進症を含んだ概念なので、ここでは甲状腺中毒症という表現で統一します。
甲状腺中毒症になると、イライラしやすい、暑がり、発汗過多、手の震え、動悸、息切れ、脚がむくむ、便が緩い、体重が減るなどの症状が出てくることがあります。
甲状腺中毒症の検査
まず血液検査でホルモンの検査を行います(TSH、FT3、FT4)。当院ではこれらの院内検査を行っており、30〜45分で結果が出てきます。
甲状腺中毒症であることが確認できたら、原因疾患の検索のため、血液検査で甲状腺の抗体を調べたり、甲状腺エコー検査をしていきます。
必要に応じて、シンチグラフィ(甲状腺に集積する性質を持つ放射線医薬品を投与して画像検査を行うもの)や下垂体MRI検査を追加することがあります(当院ではこれらの検査はやっておらず、近隣の病院に検査依頼します)。
バセドウ病の治療
甲状腺中毒症のうち、主要なものはバセドウ病で、甲状腺を刺激する抗体ができて甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気です。ここではバセドウ病の治療について説明していきます。大きく分けて薬物療法、アイソトープ療法、手術療法の3つの選択肢がありますが、一般的にはまず薬物療法を行いますが、薬物療法の目的は「寛解」(薬物療法なしでも甲状腺ホルモンの量が正常な状態)に持ち込むことであり、「完治」ではありません。「寛解」に至っても一生のどこかで再発するリスクは常にあります。「完治」を目的とする場合は、アイソトープ療法や手術療法を選択します。
当院では薬物療法を行います。アイソトープ療法や手術療法を選択する場合は、近隣の病院に紹介させて頂きますが、その場合も術後の経過観察は当院で行うことができます。
薬物療法
メルカゾール®、チウラジール®(プロパジール®)、ヨウ化カリウムなどの薬が使われます。
ヨウ化カリウムは即効性があるものの、長期に使用すると効果が減弱することがあり、長期的な治療の柱はメルカゾール®もしくはチウラジール®(プロパジール®)になることが多いです。
主要な副作用
メルカゾール
- 無顆粒球症
- 肝障害
- 皮疹・皮膚掻痒感
チウラジール
- 無顆粒球症
- ANCA関連血管炎
ヨウ化カリウム
特記すべき副作用はありません(ただし一般的にヨウ素を長期的に摂取すると、甲状腺の腫れがひどくなる可能性があると言われています)。
このうち、無顆粒球症という疾患は、血中の好中球という成分が高度に低下し、重篤な感染症にかかりやすい状態であり、危険です。メルカゾール®、チウラジール®(プロパジール®)開始後2か月以内に起こりやすいと言われており、これらの薬の開始後2か月は2週間おきの採血検査が必要です。また、38℃以上の発熱や、喉の痛みなどのかぜ症状が出現したら、受診して採血検査を受けるようにしてください。
アイソトープ療法
甲状腺に集積する性質をもつ、放射性ヨウ素の飲み薬を内服し、甲状腺を萎縮させる治療です。痛みはありません。被曝を心配される方が多いですが、癌や白血病になる確率が上がるという明確な証拠はないと言われています。一般的には再発を避けるために十分な量の放射性ヨウ素で治療されることが多く、その場合、永続的な甲状腺機能低下症になることがあります。
手術療法
甲状腺の大部分ないし全てを切除するものです。
再発を抑制するために、甲状腺全摘出術を選択されることが多いですが、その場合は永続的な甲状腺機能低下症となります。
バセドウ病の方の生活上の
注意事項
禁煙
喫煙していると、甲状腺中毒症がなかなか改善しなくなる他、眼球突出がひどくなると言われています。禁煙しましょう。
ヨウ素制限
ヨウ素(海藻類、だし汁などに多く含まれています)の制限は必要ないと言われています。
しかし後述のアイソトープ治療の前には、ヨウ素制限が必要です。
ストレス解消
ストレスはバセドウ病の増悪因子となります。
このストレス社会でストレスを避けるのはなかなか難しいと思いますが、可能な範囲でストレスを避けることが望ましいです。
適度な運動
甲状腺ホルモンの量が多い時期は、激しい運動は避けた方がいいですが、病状によって異なるので、運動をしたい場合は適宜医師と相談しましょう。
終わりに
バセドウ病は若い方に発症することが多い病気です。上記のようにメルカゾール®やチウラジール®開始後2か月は2週間おきの採血検査が必要ですが、総合病院では土日の外来診療を行っていないところが多く、働き盛りの平日仕事の方が、2週間おきに平日に休みを取って受診をするのは大変だと思います。当院は土曜診療を行っており、甲状腺ホルモン検査や、無顆粒球症や肝障害のチェックの検査も、即日結果が出てきます。
甲状腺中毒症が心配な方、もしくはバセドウ病と診断されたものの平日の通院が難しい方は、当院の受診をご検討下さい。